『本の「使い方」 1万冊を血肉にした方法』(KADOKAWA)は、「僕は活字中毒なんで」が口癖の読書家、出口治明さんが1万冊以上の本を読んできた経験をもとに「本の使い方」を教えてくれるものです。出口さんは自身が立ち上げたライフネット生命の会長兼CEOとしても有名ですが、そんな多忙な中でも平均して週に3、4冊は本を読んでいるといいます。
そんな著者が、どうして本を読むのかといえば
「おもしろいから」
これに尽きます。
そして、読書好きな著者が考える「本のおもしろさ」「読書のおもしろさ」や「読書の有用性」といったものが本書では明らかにされていきます。
教養を得るための効率的なツール
1章では、旅や人と比較しながら「もっとも効率的に教養を得られるツール」であるとして、本の優位性について述べられています。
① 何百年も読み継がれたもの(古典)は当たりはずれが少ない
② コストと時間がかからない
③ 場所を選ばず、どこでも情報が手に入る
④ 時間軸と空間軸が圧倒的に広くて深い
⑤ 実体験にも勝るイメージが得られる
これが著者が考える本のメリットです。
「② コストと時間がかからない」は次のような面白いたとえ話で説明しています。
「アメリカのオバマ大統領に直接会って、話を聞きたい」と考えたとしましょう。飛行機のチケットを買って、1カ月滞在して、毎日ホワイトハウスに通ったとしても、オバマ大統領に会える確率は、おそらくゼロに近い。そう簡単には会えません。
しかし、リンカーン大統領なら、わずか700円足らずで、会うことができます。『リンカーン演説集』(高木八尺 斎藤光・訳 岩波文庫)を買って読めば、それで足りるからです。
つまり、本を読むことによって低コストで大統領の話を聞くことが可能になるというわけです。
「おもしろそうな本」の選び方
2章では、何を読むか、つまり本の選び方について書かれています。
著者の主張は「ビジネス書を10冊読むより、古典を1冊読むほうが、はるかに得るものが大きい。」ということで古典を読むことを勧めています。
理由は
① 時代を超えて残ったものは、無条件に正しい(中略)
② 人間の基本的、普遍的な喜怒哀楽が学べる
③ ケーススタディとして勉強になる
④ 自分の頭で考える力を鍛錬できる
からです。このそれぞれの理由が古典の文章の引用を使って具体的に説明されている部分も非常におもしろいです。
ただ、いきなり古典を読もうと思っても普段古典を読まない人には大変ハードルが高いですね。そのことは著者もわかっていて
① 書店や図書館で薄い古典を「10冊」ほどピックアップする
② タイトルを眺めて、気になる作品を2~3冊選ぶ
③ 読んでみておもしろければ、そのジャンルを広げる
というように、ちょっとハードルを下げてくれています。
また、古典だけでなく現代の本を選ぶ時のマイルールの決め方についても解説されています。
本の読み方
2章までで読む本が決まったので、3章はいよいよ本の読み方についての説明です。
ここが出口さんの特徴がもっともよく出ています。
- 目次はほとんど読まない
- 速読よりも熟読をする
という記述が印象的です。
「本は著者との対話である」
「本を読むことは、著者の思考プロセスを追体験することである」
と考えているので、目次や見出しを拾うだけでは、本をよんだことにはならない
大切なのは、残存率であって、「何冊読んだか」よりも、「どれだけの知識や情報が身に付いたかです。だとすれば、速読よりも「熟読」をしたほうが、はるかにいいのではないでしょうか。
というのが上の方針の理由です。
最近出ている読書術に書かれた本の傾向からすると真逆の主張なのがユニークですね。
まとめ
こんな感じで「本の使い方」=「本の選び方、読み方」に関する著者の主張が展開されていきますが、ここでは書ききれない古典の引用部分とその説明が具体的で非常にわかりやすいですね。
単に本の読み方選び方を示すのにとどまることなく、1万冊以上の本を読んできた著者ならではの読書哲学が具体的に書かれているところが特徴的です。
本の読み方について悩んでいる方にはぴったりの内容だと思います。